ぐるぐる飜譯

しろうと翻訳者の理解と誤解、あるいは無知無理解

O・ヘンリー「運命の衝撃」(THE SHOCKS OF DOOM) 翻訳中(04)

公開版:運命の衝撃  : 11005m

 

前回:

O・ヘンリー「運命の衝撃」(THE SHOCKS OF DOOM) 翻訳中(03) - ぐるぐる飜譯

 

And all this was because an uncle had disinherited him, and cut down his allowance from liberality to nothing. And all that was because his nephew had disobeyed him concerning a certain girl, who comes not into this story—therefore, all readers who brush their hair toward its roots may be warned to read no further.

訳:このようなことになったのは、彼がおじに勘当され、それまで気前よくもらっていた手当を全く受け取れなくなってしまったからだ。それはどういうことなのかといえば、甥が今回の話では出てこないが例の娘のことでおじに背いたからだ――したがって、男女の事細かなことまで知りたがる読者に向けては、これ以上読むところはないとあらかじめ言っておこう。

 

訳者の理解(もしくは無知無理解):
「彼(主人公)は、おじに勘当された)」と「彼(おじ)の甥(主人公)が“例の娘”について彼(おじ)の意見を聞かなかった」と、いきなり主語が変わる文が登場。訳しづらい。

brush one's hair toward its roots 「根本に向かって髪をブラッシングする」というのは慣用表現のような気もするが、調べきれなかった。「細かいところまで」的なニュアンスはあるし、召使いが主人の髪をとかしながら内心いろいろプライベートなことまで観察してるみたいな感じかな。大久保訳でも「根掘り葉掘りききたがる」となっていて、そういった意味ではあろうと思うので「彼らの髪の根本までブラシがけしたい読者には」などという直訳にするのは避け、かなり強く意訳した。

who comes not into this story— を無理やり2パラグラフ目に混ぜ込んでいるが、3パラグラフ目の「知りたがる読者に向けては~あらかじめ言っておこう」にうまく繋がっていない。ここは訳文の構成を変えないとダメかもしれない。

 


 

There was another nephew, of a different branch, who had once been the prospective heir and favorite. Being without grace or hope, he had long ago disappeared in the mire. Now dragnets were out for him; he was to be rehabilitated and restored. And so Vallance fell grandly as Lucifer to the lowest pit, joining the tattered ghosts in the little park.

訳:とにかくそこで、かつては後継者として寵愛を受けていた家系の異なる別の甥が出てくる。この男は美点も将来性もなく、ずいぶん昔に苦境に陥り行方をくらましていた。それを今どうにか見つけ出し、以前の地位に戻してやり直させようということになったのだ。そうなるとヴァランスはルシファーが堕天するかのごとく壮大に転落し、この小さな公園でぼろぼろの亡霊の仲間入りというわけである。

 

訳者の理解(もしくは無知無理解):
in the little park. 冒頭でマディソン・スクエアを「上流の公園」みたいに言ってたのに、ここで「この小さな公園」というのはなんだか一貫してない気もする(上流下流は大小のことだけではないだろうし、しょせん公園は公園であり屋根があるわけでもない、というのもあるけど)。2万5000平方メートルつまりおよそ155メートル四方の公園が20世紀初頭のアメリカ人にとって大きいのか小さいのかよくわからん。僕の近所の公園なんかせいぜい30メートル四方だ。littleになにか好意的な意味あいがあるか調べたが、特に見つからなかった。第一回で修正したとおり、この部分を持って主人公がマディソンスクエアを評価していないと判断して修正。まさに訳者の無知無理解である。

joining the tattered ghostsで「ぼろぼろの亡霊の仲間入り」はリズムが悪い。改善の余地あり。

 

続き:

O・ヘンリー「運命の衝撃」(THE SHOCKS OF DOOM) 翻訳中(05) - ぐるぐる飜譯